※この記事では『シー・ハルク:ザ・アトーニー』最終話(第9話)の展開に触れています。結末を知りたくない人はご注意ください。
『シー・ハルク:ザ・アトーニー』を見ていて、主人公ジェニファー・ウォルターズが急にカメラ目線でこちらに話しかけてくる場面に驚いた人は多いはずです。実はこの「第四の壁を破る」演出、原作コミックの時代から続くシー・ハルクというキャラクターの伝統芸で、MCUドラマ版でも第1話から使われています。さらに最終話ではこの演出が物語の根幹に関わる形で使われ、ジェニファー自身が「ドラマの外」に飛び出してマーベル・スタジオに直談判するという展開に発展します。この記事では、シー・ハルクがなぜ第四の壁を破れるのか、その原作設定と、MCUドラマ版・特に最終話での使われ方を解説します。作品の基本情報やあらすじはシー・ハルクとは?あらすじ・登場人物・見どころを解説で先に確認しておくと理解しやすくなります。
第四の壁とは?
「第四の壁」は演劇や映画の世界で使われる用語で、観客とフィクションの世界を隔てている見えない壁のことを指します。役者やキャラクターが物語の中の存在であることをやめてカメラ(=観客)に直接語りかけたり、自分が映画やドラマの登場人物であることを自覚した発言をしたりする演出は「第四の壁を破る」と呼ばれます。通常のヒーロー作品では滅多に使われない手法ですが、シー・ハルクはこの演出を象徴するキャラクターのひとりです。
シー・ハルクが第四の壁を破れる理由は原作コミックの伝統
シー・ハルクが第四の壁を破るのは、MCUドラマ版だけのオリジナル設定ではありません。原作コミックでは1989年に始まったジョン・バーン氏によるシリーズ『The Sensational She-Hulk』の頃から、ジェニファーが読者や作者に向かって直接語りかけたり、自分がコミックのキャラクターであることを自覚した言動を取ったりする演出が繰り返し描かれてきました。バーン版の第1号の表紙では「この本を買わないとX-メンの本を全部破いてやる」とジェニファーが読者を脅す構図が使われるなど、コミックという媒体そのものをネタにするメタフィクション的なギャグが特徴です。
後の号ではジェニファーがマーベル・コミックスの編集部に直接乗り込む展開も描かれており、「作品の作り手に直談判する」という構図自体、原作コミックの時代からシー・ハルクというキャラクターに根付いていたものです。アメコミにおける第四の壁ネタの代表格としてよく挙がるのはデッドプールですが、シー・ハルクは1989年開始のこのバーン版コミックですでに同様の演出を行っており、デッドプールというキャラクターが初登場する前からの実践例だったとされています。
MCUドラマ版でも第1話から使われる第四の壁
MCUドラマ版『シー・ハルク:ザ・アトーニー』では、この原作の伝統を引き継ぐ形で、ジェニファーが第1話からカメラに向かって直接語りかける演出が使われています。法廷でのやり取りや従兄弟ブルース・バナーとの関係、自分に起きた出来事へのツッコミなどを視聴者に直接説明するナレーションのような使い方がシリーズを通して繰り返されます。
本作の脚本統括を務めたジェシカ・ガオは、『Rick and Morty』や『Robot Chicken』といった作品に携わってきた経歴を持ち、第四の壁を破るメタ的なユーモアとセルフパロディを本作の軸に据えたことを明かしています。実写のMCU作品でここまで本格的にこの手法を使ったのは本作が初めてで、シリアスになりがちなヒーロー作品の中で異色のコメディタッチを生み出す要素になっています。
【ネタバレ】最終話「主人公は誰?」での第四の壁演出を解説
この演出が最も大胆に使われるのが、2022年10月13日(米国時間)に配信された最終話「主人公は誰?」(原題:Whose Show Is This?)です。終盤の展開に納得がいかないジェニファーは、カメラに向かって「話が支離滅裂だ」と不満をぶつけたあと、番組そのものを飛び出してディズニープラスのメニュー画面へと移動してしまいます。
そこからジェニファーは、マーベル・スタジオのドキュメンタリーシリーズ『マーベル・スタジオ:アッセンブル』の制作現場という体裁の場所に迷い込み、脚本を担当するスタッフの部屋に直談判に向かいます。スタッフから「ケヴィン(マーベル・スタジオ社長)の意向」だと説明されたジェニファーは、さらにマーベル・スタジオ本社へと足を運び、MCU全体のストーリーを統括するAI「K.E.V.I.N.」(Knowledge Enhanced Visual Interconnectivity Nexus)と対面します。K.E.V.I.N.はマーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギ氏をモチーフにしたキャラクターで、作中では「MCUの脚本上の決定を下す黒幕」として描かれています。
ジェニファーはこのK.E.V.I.N.との対話を通じて最終話の展開そのものを自分の望む形に書き換えさせ、物語はより単純で納得のいく結末へと着地します。「作品の作り手に直接乗り込んで話をつける」という構図は、前述した原作コミックでジェニファーがマーベル編集部に乗り込む展開ともよく似ており、原作の伝統がMCUドラマ版の最終話で規模を広げて再現された形になっています。実際にこの場面を映像で確認したい人は、Disney+で本編を視聴できます。
この演出に込められた意図・脚本家のコメント
脚本統括のジェシカ・ガオは、この最終話について「この作品にとっては正しい終わり方だ」と述べています。マーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギ氏との会話の中で、お決まりの第3幕バトルに頼らない結末にしてはどうかと後押しされたことが最終話のアイデアの出発点になったとも語られており、シリーズを通して積み重ねてきた「第四の壁を破る」演出を、物語の締めくくりそのものに応用した形になっています。
この最終話の評価は視聴者の間でも賛否が分かれており、詳しい評価の傾向はシー・ハルクの評価は?面白い・つまらないと言われる理由を整理で解説しています。
原作コミックとMCU版の違い
原作コミックの第四の壁ネタは、あくまで「コミックという紙媒体・出版物」を意識したギャグが中心で、ジェニファーが読者や作者、編集部に向かって語りかける形が基本でした。一方でMCUドラマ版では、映像作品・ストリーミング配信という媒体そのものをネタにしており、ディズニープラスのメニュー画面やドキュメンタリー番組の制作現場、AIによるMCU全体の管理体制といった、実写ドラマならではの要素に置き換えられている点が大きな違いです。原作・MCU版のどちらも「シー・ハルクは自分がフィクションのキャラクターであることを自覚している」という基本設定は共通しており、この設定を活かして作り手側への皮肉やメタ的なユーモアを描く手法として一貫しています。
配信状況
『シー・ハルク:ザ・アトーニー』は全1シーズン・全9話の構成で、Disney+の独占配信作品です。本記事執筆時点でも他の動画配信サービスでは配信されておらず、視聴するにはDisney+への加入が必要です。
よくある質問
シー・ハルクはなぜ第四の壁を破れる?
1989年開始のジョン・バーン版コミック『The Sensational She-Hulk』の頃から、ジェニファーが読者や作者に直接語りかけるメタフィクション的な演出が繰り返し描かれてきたためです。この設定がMCUドラマ版にもそのまま引き継がれています。
K.E.V.I.N.とは何者?
最終話に登場する、MCU全体のストーリー上の決定を下すAIです。マーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギ氏をモチーフにしたキャラクターで、ジェニファーはこのK.E.V.I.N.と直接対話することで最終話の展開を自分の望む形に変えさせます。
デッドプールとどちらが先に第四の壁を破った?
アメコミの第四の壁ネタというとデッドプールが有名ですが、シー・ハルクは1989年開始のジョン・バーン版コミックですでにこの演出を行っており、デッドプールというキャラクター自体が誕生する前からの実践例だったとされています。
最終話のタイトルの意味は?
最終話(第9話)の邦題は「主人公は誰?」、原題は「Whose Show Is This?」です。ジェニファーが番組の展開そのものに疑問を投げかけ、「この番組は一体誰の物語なのか」を問い直す最終話の内容を象徴したタイトルになっています。
原作からMCUドラマ版まで受け継がれてきた第四の壁の演出を踏まえたうえで、実際にジェニファーがK.E.V.I.N.に直談判する場面を見返したい人は、Disney+で本編をチェックできます。



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